Q.知的財産権とは
A.知的活動によって生じた無形の財産にかかわる権利の総称。「工業所有権」と「著作権」の二つ」に大別される。
「財産」と呼ばれるものには、土地や家屋、宝石、クルマなど有形のものと、文学作品や絵画、音楽、各種の発明のように無形のものとがある。「知的財産権」は、そうした財産のうち、人間の知的活動によって生じた無形の財産にかかわる権利の総称である。したがって、アニメのキャラクターやルイ・ヴィトン、シャネルといったブランド名、コカ・コーラやマクドナルドのロゴマークなどは全て知的財産権の対象になる。
知的財産権は、法律用語の「Intellectual Property」の訳語として1980年代初めから使われ始めた。官庁などでは「知的所有権」のほうを使うことが多い。また、他に、「無形財産権」という言い方もある。
知的財産権はその対象物によって、各種の法律で保護されている。例えば、発明は特許権として特許法で、美術作品などは著作権法で保護されている。
●工業所有権と著作権に大別
その知的財産権は特許や実用新案、意匠、商標などについての「工業所有権」と芸術作品、コンピュータソフトなどについての「著作権」の二つに大別される。
特許は前者の工業所有権の代表的なもので、新規の技術で社会の発・に貢献すると思われる発明に一定期間、与えられる実施権である。
工業所有権の一つである実用新案は、物品の形状、構造または組み合わせに関する考案を保護するものである。ただし、特許との区別があいまいであるため、この制度を採用していない国も多い。
意匠権は、新規で美的な製品のデザインに利用しうる外観上の特徴ある意匠の創作である。登録された場合、特許と同様の権利が与えられる。
企業のハウスマークや商品の名称、サービスマークには登録によって商標権が与えられる。これが商標で、商品や企業の信用にかかわる重要なものである。
著作権は、小説や論文、絵画や音楽などの人間の思想、感情を創作的に表現したもの(著作権と呼ぶ)を保護するものである。
●既存の枠組みでは限界
知的財産権はその対象物によって各種の法律で保護されていることは先に見たとおりだが、知的産業が生み出した新しい技術の登場で、近年はこれら既存の権利保護の法的枠組みでは保護しきれないものも出てきている。バイオテクノロジーの産物や、コンピュタのプログラムなどがそれである。
このため、実際の保護に当たっては、各種の法律を動員して体系的な保護を図る観点からの検討が必要になってきている。
Q.なぜ、知的財産権が重視されるのか
A.産業や社会の構造変化が背景。空洞化の進行で、特許庁も知的財産権の権利保護を強化。
近年、日本でも特許権や著作権などの知的財産権を重視する傾向が目立っている。その背景には、産業や社会構造の変化がある。
戦後の日本は欧米に追いつくために、技術にしろ文化にしろ、欧米からの導入とコピーによるキャッチアップを基本戦略としてきた。したがってそこでは、オリジナルなものを尊重するという発想は育ちにくかった。
しかし、いまやキャッチアップはほぼ限界に達し、コピー型の産業や文化では、十分な利益や評価を得ることはむずかしくなっている。フロンティア型に変身することが求められているのである。
特に、日本企業が今後も成長を続けていくには、独自の技術や新しい価値の創出が不可欠である。知的財産権は日本企業が生き残るためのキワードなのである。アニメ、ゲームソフト、音楽など日本発のソフトが海外に輸出され始めたのは、この意味でいい兆候といえる。
●円高と特許紛争が契機
産業界が知的財産権を重視するようになった直接的なきっかけは二つある。
一つは、85年のプラザ合意による急激な円高である。これによって重厚長大産業は構造的な不況に陥り、また多くの製造業で工場の海外移転が進んだ。このため、国内では、より付加価値の高い物づくりのため、独創性を重視する機運が高まった。
もう一つのきっかけは、コンピュータや半導体などのハイテク産業における特許紛争の増加である。米国が80年代半ばから官民挙げてプロ・パテント(特許重視)政策を推進し、多くの日本企業が特許侵害を理由に訴えられたことは記憶に
新しい。この経験が、日本企業の知的財産権に対する意識をいっそう高めさせたのである。
●保護強化急ぐ経済産業省
産業界の知的財産に対するスタンスの変化を受けて、国もプロ・パテント政策を鮮明にしつつある。
米国がすでに80
年代半ばからプロ・パテント政策をとったこともあり、日本はこと知的財産権の権利保護の面では大きく水を開けられてしまった。このため、日本企業の中には、特許取得で米国を優先させたり、日米双方の自社特許が侵害された場合には、米国での裁判による権利主張を優先する動きが目立っている。いわゆる、特許の空洞化が起きているのである。
なお、知的財産権制度の充実を図るため、99年5月に、
@権利取得の早期化
A権利侵害に対する救済措置の拡充
B利便性向上および負担の軽減
などを骨子とする「特許法等の一部を改正する法律」が交付された。
Q.特許、実用新案とは
A.特許は、公表することへの見返りとして、発明に一定期間与えられる独占実施権。
実用新案は「考案」を保護。
特許とは、新規の技術で社会の発展に貢献するとみられる発明に一定期間与えられる独占実施権で、特許制度で保護されている。
特許制度が、発明者に発明内容の公表を条件にその発明を一定期間、独占的に実施する権利を与えられているのは、発明の内容を広く一般に公表させ、改良への参考としていくほうが、技術や産業の発展のスピードアップにつながるからである。
さまざまな技術や極意はその昔、師匠から弟子へ秘伝として伝えられ、技術の神秘性が保護されていたが、それでは産業の発展は望めなかった。
独創的実施権は、発明を公表することへの見返りである。
●自然法則などは該当せず
発明として認められるのは、日本の特許制度によると、「自然法則を利用した技術的思想のうち高度なもの」である。したがって、「エネルギー保存の法則」のような自然法則そのものや、経済学上の法則を用いた課税方法の創作などは発明として認められていない。
特許権を取得するためには、特許庁の審査をパスしなければならないが、その審査は、
@産業上、利用できること
A新規性、進歩性のあること
B他人より先に出願していること
C内容が十分、開示されていること
などの要件を備えているかどうかを判断して行われる。
●実用新案は無審査で登録
特許が「発明」を保護するのに対し、実用新案は「考案」を保護するものとされている。ここで実用新案の対象となる考案とは、物品の形状、構造、組み合わせなどに関する創作で、発明よりその程度が低い小発明のことをいう。
日本の実用新案制度は、94年1月に改正法が施行され、内容が変更された。
改正法では、基礎的な要件を満たしていれば、実用新案は無審査で登録され、権利期間も改正前の10年から6年に短縮された。
また、権利行使には、特許庁が作成した「技術評価書」(先行技術資料の調査報告書)の提示が義務付けられ、無審査制が補われている。
Q.意匠とは
A.マス・プロダクションの対象となる商品のデザイン。商品の競争力を高める手段として重要。
商品に競争力を与えるものとしてはまず、商品の機能があげられるが、見た目の美しさ、すなわちデザインもそれに劣らず重要である。
このため、各企業は、機能面での研究開発に加え、デザイン的な面での研究開発にも力を入れている。こうしたデザインは意匠と呼ばれ、企業の重要な財産として、意匠法で保護されている。
その意匠法は、意匠について、「意匠とは、物品の形状、模様もしくは色彩または、これらの組み合わせ」であって、「視覚を通じて美観を起こさせるもの」と定義している。少々、まわりくどいが、端的にいえば、「見た目に美しいもの」、それが意匠ということになる。
著作権法が、芸術家が一つ一つ手作りで創り出す美術品のようなものを保護対象としているのに対して、意匠法は、工業デザイン、つまりマス・プロダクションの対象となる商品のデザインを保護対象としており、この点が著作権法と大きく異なる。
●模倣から守るため登録
意匠は、特許と同じく、日本では審査後、登録されて、意匠としての権利が発生する。そして、登録すれば、当該意匠について独占的・排他的に実施することができる。
したがって、多額の経営資源を投入して完成された意匠は、他人による模倣から守るため、意匠登録することが有効である。
意匠登録をするためには、一定の様式に従って、特許庁に出願し、審査を受ける必要がある。
前述したように意匠権は独占権であるから、万が一、自社の製品の意匠が他人の意匠登録の権利範囲に含まれるとされた場合には、実施の差止め請求等受けるおそれがある。したがって、自社製品に新規の意匠を採用する場合には、他社の先行意匠登録がないか、注意を払う必要がある。
●関連意匠制度を創設
デザイン開発においては、一つのデザイン・コンセプトから多くのバリエーションの意匠が同時期に創作されるという実態がある。しかし、旧類似意匠制度ではこのようなバリエーションの意匠の保護が不十分だった。
そこで、一つのデザイン・コンセプトから創作された場合に限り、同等の価値を有するものとして保護し、各々の意匠について権利行使することを可能とする関連意匠制度を創設した。
Q.商標とは
A.自社の商品やサービスを他社のものと区別するために使用する「マーク」。
「グッドウィル」(信用)の保護に重要。
商品、サービスの市場において、各企業は自社の販売する商品やサービスを他社のものと区別するために、さまざまな「マーク」を使用している。それは時に、ユニークな言葉であったり、図形であったりする。そのように自他の識別のために使用されるマークが商標である。
日本の商標法では商標について、「文字、図形もしくは記号もしくは立体的形状もしくはこれらの結合または、これらと色彩との結合」であつて、「商品または役務(サービス)について使用されるもの」と規定されている。これらのうち、出願、審査を経て、要件を満たすと認められ、特許庁で登録されたものが「登録商標」である。
97年4月1日から改正商標法が施行され、立体商標の登録が可能になった。一定の要件を満たすものであれば、商品や容器の形状、マスコットなど立体的なものも登録される。
これまでの公告制度は廃止され、登録後に意義申立てを行える付与後異議制度に改正された。審査手続きも簡素化され、一つの出願で複数の区分に属する商品または役務を指定できるようになった。
また、登録の更新については実体審査が廃止され、登録後6ヶ月間は倍額の登録料を支払えば更新可能となった。ただし、防衛標章の更新申請および重複登録されたサービスマークの登録は実体調査される。その他に、団体が事業者であるその構成員に使用させる商標を、団体商標として登録できるようになった。
●不適切な使用で権利は失効
商標はそれを使用する自社の商品、サービスについて登録される。他人の登録商標と同一商標であっても、不正の目的でなければその指定する商品またはサービスが異なるなど、登録を阻害する理由がなければ登録されることになるのである。
しかし、登録しても使用しないと登録が取り消される。登録商標を継続して3年間、その指定商品またはサービスに使用していないと、何人でもそれを理由として、特許庁に当該商標登録の取消しを求めて審判を請求できる。
また、登録した商標も適正に使用していないと、商標が一般名称になってしまい権利が失効することもある。
登録された商標と同一または類似の商標を使用すると、商標権侵害となる。そのため、新商標を使用開始する前に抵触する他人の先行権利がないか調査することが必要である。
Q.著作権とは
A.著作物に発生する権利で、それを創作した物に与えられる。権利は著作物を創作した時点で自動的に発生する。
著作権とは、著作物に発生する権利で、それを創作した物(著作者)に与えられ、その権利の制限などは著作権法によって規定される。
著作権法によれば、著作物とは、「思想または感情を創作的に表現したものであって文芸、美術、または音楽の範囲に属するもの」を指す。
したがって、出版物の他、コンピュータ・プログラム、データベース、CD-ROM、レコード、録画、放送、複写機による書類なども著作物に含まれる。
●死後50年間、保護
著作権が、特許や実用新案など工業所有権と一番、異なる点は、工業所有権と一番、異なる点は、工業所有権が登録して初めて権利が発生するのに対し、著作権は、著作物を創作した時点で自動的に権利が発生し(無方式主義)、以後、原則として、著作者の死後50年間、保護される点である。
著作権がこのように手厚く保護されているのは、もし、著作物が保護されなければ、模倣の横行で考案者や創作者が十分な費用の回収ができなくなり、やがては知的創作活動の衰退を招くおそれがあるからである。
とりわけコンピュータのソフトウェアは、コピー品が簡単に安価で、しかも何回も劣化なしで作れるため、法的な保護が不可欠で不可欠である。
●人格権は譲渡、相続できず
著作権は、複製権、上演権、送信権といったさまざまな権利から構成されるが、広義に著作権といった場合には、こうした財産権の他に、著作物の他に、著作物について著作物の人格的利益を保護する著作権人格権も含まれる。
著作権人格権は、公表権、氏名表示権、同一性保持権の三つからなるが、いずれの権利も、著作者以外の第三者に認めることは適切でないので、譲渡したり、相続したりすることはできない。
また、著作者人格権には、狭義の著作権と異なり、保護期間が定められていないため、著作者が死亡すると権利が消失する。ただし、著作権法には、著作権人格権侵害となる行為はしてはならないと規定している。
Q.著作権隣接権とは
A.著作物を利用し伝達するものに対して、その利用行為自体に著作権に準じた創作性を認め保護。
著作権法は著作権の他に、著作隣接権を権利として規定している。
これは、著作物を利用し伝達する者に対して、その利用行為自体に対して、その利用行為自体に著作権に準じた創作性を認め保護したものである。
著作権隣接権には、@実演家、Aレコード製作者、B放送事業者・有線放送事業者の三種類の権利がある。
実演家とは、歌手や演出家、俳優など、音楽や映画・演劇などの著作物を演じる者、あるいはこれを指揮・演出する者をいう。実演家は、歌や演奏あるいは演技などの実演を録音・録画する権利、放送・有線放送する権利、インターネットなどにアップロードする権利(送信可能化権)を有する。
また、レコードに録音された実演を放送する放送事業者に対し二次使用料請求権、このレコードをレンタルするのは貸与報酬請求権という報酬請求権が認められる(なお、発売後1年以内のレコードについては差止め請求権が認められている)。
レコード製作者とは、音を最初に固定化した者をいい、著作権上は必ずしもレコード会社とは限らない。なお、ここでいうレコードとは、音を固定化した媒体という意味で、CDや録音テープ、MDなども含まれる。
レコード製作者の権利は、レコード複製権、放送に関する二次使用請求権と発売後1年経過後のレコードに対する貸与報酬請求権(1年以内は実演家同様、差止請求権が認められる)のである。
また、実演家とレコード製作者には私的録音録画報償金請求権もある。
このように、著作隣接権は、著作権と比べて差止請求権の範囲が狭く、実際には報酬請求権が中心となっている。また、著作隣接権には、著作権のように人格権の規定がない。
近年、マルチメディア時代の到来に伴い、デジタル録音・録画による音や映像の複製・改変がきわめて容易になり、音や映像の二次的利用や改変が多く行われるようになった。
このため、二次的利用や改変に対して実演家の権利を確保すべきであるという要請が世界的に高まり、WIPO(世界的知的所有権)においても新条約採決を検討している。日本でも、実演家の団体である芸団協が国際シンポジュウムを開くなど、権利化に向けて活発な活動を続けている。
こうした動きに対して文化庁も97年11月に、映像の二次的利用に関し著作権法の見直しを行う懇親会を発足させた。
Q.特許ライセンスとは
A.発明の実施権を有償で他人に許諾。専用実施権と通常実施権の2種類があり、実施権の相互許諾も増える。
特許発明は、その所有者である企業や個人自身によって実施されるばかりでなく、他人にライセンス(実施権)を許諾することよっても利用される。
ライセンスには、専用実施権と通常実施権の2種類がある。
専用実施権は、物件的な排他的な権利で、年数など設定行為を定めた範囲内では特許権者も実施する権利がなくなる。
したがって、専用実施者は、権利が他人によって侵害された場合には差止請求や損害賠償請求を起こすことが可能である。
これに対して、通常実施権は、債権的な権利で、排他性がない。当然、特許権者は、同一の発明についての内容の同じ複数の実施権を他人に許諾できる。
したがって、もし自分以外にも実施権が与えられては困るのであれば、実施権者は、「複数の通常実施権の許諾を禁じる」旨のを特約した独占的通常実施権を得るか、許諾を特定の複数の実施権者に限るセミ・ライセンスを得る必要がある。
なお、実施権者は、第三者に再実施権(サブライセンス)を与えることができるが、その場合は、特許権者から許可を得るか、あらかじめ契約の段階で再実施権を許諾する権限を得ておく必要がある。
●実施権の相互許諾増える
実施権を得るには、実施料(ロイヤルティ)のような、金銭を払うのが通例だが、特許権者の要求に応じて、金銭の代わりに自社の持っている特許発明の実施権を充てる場合もある。クロスライセンスと呼ばれるものがそれである。
クロスライセンスが選択されるのは、一つの優れた技術を開発したに等しい効果がもたらされるからである。
特許権の実施権は従来、単純な、あるいは一方的な許諾が主流だったが、新技術の導入が困難な現在は、クロスライセンスが増える傾向にある。
なお、クロスライセンスは無償とは限らず、不足分については当然、当事者のどちらかが対価を支払わなければならない。
二人以上の特許権者がそれぞれの特許を持ち寄り、共同所有して、各々が使用できるようになったものを特許プールと呼ぶが、これはクロスライセンスが発展したものである。
Q.休眠特許とは
A.取得したものの使うあてのない特許。宝の持ち腐れ状態解消へ。
官・民が活用案を模索。
休眠特許とは、取得したものの実際には使われていない特許のうち、「他へライセンスしてもよい」と考えられている特許のことである。
日本で現在、存在している特許計83万件のうち不実施ものは67%、さらにそのうち開放する意思のないものは35%あるので、残りの36万件が休眠特許ということになる。これは、特許全体の40%以上に当たる。
日本企業はこれまで、自社製品を防衛するための周辺技術まで含めてできるだけ多くの特許を取る傾向が強かった。また、自社で商品化しても利益が見込めない場合や経営方針の変化により、そのまま放っておくケースも少なくなかった。
このため、知らず知らずのうちに休眠特許が増え、冒頭で見たような状態になっているわけである。
休眠特許を放置しておくことは、国家的な見地から見て大きな損失である。大企業では実施できなくても、中小企業なら実施して商品化できる可能性があるからである。
また、企業経営の観点からいっても、せっかく多額の費用をかけて取得して眠らせておくのはロスが大きい。休眠特許の活用は企業にとっても今や重要な課題なのである。
●産業界挙げて市場整備急ぐ
今や国家的課題となった休眠特許の活用は、官・民双方からのアプローチが行われている。
民ではまず、99年3月に、日本を代表する大手企業約50社が集まって、「知的視有権流通機構事業化研究会」が発足した。
大企業の休眠特許や金融機関が融資担保としてのソフトウェアなどの流通市場をつくることが目的であることはいうまでもない。
特許や技術を提供する事業者を結ぶ特許および技術の流通市場の確立には大きな意義がある。
●特許庁は無料検索サービス
一方、官では特許庁が97年末に特許の「電脳市場」を創出した。ホームページを通じて特許情報を無料検索できる「特許流通データベース」がそれである。このデータベースには、国の機関や希望企業の特許情報が登録されるが、登録に対し原稿料として一件あたり3000円を支払うほど力を入れている。
金融機関や自治体の一部は、知的財産権を担保にした融資を始めている。しかし、実際には流通市場未整備と評価方法の未確立がネックになり、件数はさほど伸びていない。日本にもプロ・パテント時代が本格的に到来するには、特許の流通体制整備が急務である。
Q.新しい知的財産権にはどのようなものがあるか
A.バイオテクノロジーとソフトウェアを中心に、近年は、「ビジネスモデル特許」など金融、流通分野にも範囲が拡大。
知的財産制度は、その時代その時代における産業の発展段階、社会・経済情勢、技術レベルによりその形態を変えてきており、その保護スキームも変化している。
●バイオはすべて網羅
まず、特許関係では、70年代の後半から80年代にかけて、バイオテクノロジーの分野で保護の範囲の著しい拡大がみられた。
78年の種苗法の制定で、植物の品種が特許法と種苗法双方の保護を受けることになったし、翌79年には、基準の明確化で微生物にも特許が認められるようになった。また、87年には、遺伝子組替えによる微生物、植物、動物にも特許の範囲が拡大。バイオテクノロジー関係は、80年代までに、遺伝子技術の成果物である微生物、植物、動物すべてに特許の対象範囲が及ぶことになった。
バイオテクノロジー以外ではまず、自然法則を利用した技術的思想の創作ではないので特許の対象外であるとされていた数学の解法などに関して、「カーマーカー法」と呼ばれる数学的解法を応用してこれをシステム上で実行する方法の発明が93年に特許として認められた。
また、95年には、これまで特許の世界とは無縁であったともいえる金融分野において特許が認められた。高度情報化社会における主要な決済手段となることが期待される。「電子マネーがそれである。
「電子マネー」は、インターネットなどの通信網を利用したものでは、国境を越えた瞬時の決済が可能となり、金融や情報通信分野の自由化などを背景に、現在の経済社会のシステムそのものを変える可能性があると考えられているのである。
さらに97年4月からは、特許の審査基準の改訂により、「プログラムを記録した記録媒体」が特許の対象範囲に含まれるようになった。
97年には米国で、インターネットを利用した事業の仕組みそのものを対象とするビジネスモデル特許の成立が明らかとなり、日本でも成立し始めている。
●データベースはなお議論
一方、著作権関係では、80年代の半ばに、コンピュータのソフトウェアの分野で保護範囲の拡大が相次いでなされた。
85年には、近年、急激に発達しつつあるコンピュータ・プログラムについて著作権が認められた。
また、86年には、データベースが、創作性があり著作権法第二条第一項第十号の三の定義に該当すれば、著作権の保護を受けられることになった。
目下のところ、創作性のないデータベースについては、保護が及ばないが、これについても現在、マルチメディア社会の到来に対応して、何らかの保護が必要でないかとの討議が湧き起こっている。
Q.ソフトウェアはどのように保護されているか
A.アイデアやアルゴリズムは特許権で、コンピュータ・プログラムは著作権で保護されている。
●著作権と特許の守備範囲
10年ほど前、ソフトウェアは著作権で保護するのか、特許で保護するのかが話題になった時期がある。この問題は、ソフトウェアは著作権と特許の双方で保護することで決着がついた。具体的には、ソフトウェアのアイデアは特許で、ソフトウエェアの表現としてのプログラムは著作権で保護されることになった。
ソフトウェアの著作権は、プログラムが違法に複製されることを防ぐ役目があり、主に、ソフトウェアを作る企業と、それを使うユーザーの間の関係で効力を発揮する。ところが、著作権も他のソフトウェア企業との競争関係では、あまり効果がない場合もある。例えば、他企業との競争関係では、あまり効果がない場合もある。例えば、他企業のソフトウェアを真似しても、独自にプログラムを作成すれば著作権法上は別個の著作物ということになってしまう。つまり、著作権は複製を許さない強い権利ではあるが、類似のものを独自に作られることまでは防ぐことができない。
このようなときに、ソフトウェアの特許はアイデアを保護できるので、たとえ独自に作られたものでも特許のアイデアに含まれるものは特許侵害となる。これは、企業間の競争上はとても有効である。
それなら、ソフトウェアの保護は特許だけでいいではないかというと、特許だけではどうしようないこともある。そもそも、特許は販売された特許製品がコピーされるようなことを想定していない。特許の自動車や洗濯機が、購買者によってコピーされるようなことはなかったからである。ところが、プログラムは簡単にコピーできるので、複製を禁止する著作権もソフトウェアの保護には欠かせないのである。
●ソフトウェアの特許出願
ソフトウェアの特許出願については、特許庁の扱いは、年々、緩やかになってきている。当初は「方法表現」あるいは「他の装置との結合表現」など、限定された表現の仕方しか認めていなかったが、現在では、ソフトウェアは「装置」、「方法」のどちらの表現でもよく、さらにソフトウェアが記録されている「記録媒体」など、実際の権利行使に役立つような表現形式も認めている。昨年からは、「プログラム」という表現で、装置の発明として扱われるようになったので、権利行使が一層容易となった。
●プログラムの著作権登録
著作権は特許のように申請しなくても、自動的に権利が得られるが、場合によっては登録をすることが有効である。現在はプログラムのすべてをマイクロフィッシュに撮影したものを添付して申請することで、登録できる。しかし、この登録手続きは年間数百件と、あまり利用されていない。文化庁では登録手続きの近代化を進めている。
Q.ビジネスモデル特許とは
A.IT(情報技術)を活用した電子商取引や金融取引などの新しい手法に与えられる特許のこと。日米で出願が急増している。
1999年6月、日本、米国、EU(欧州連合)の特許政策担当者による実務級会合が東京で行われ、電子商取引や金融取引など新しいビジネス手法に対して与えられるビジネスモデル特許(ビジネスメソッド特許)についての大枠を決めた。
それによると、ビジネスモデル特許はまず、「IT(情報技術)を活用していること」を前提条件とするうえ、既存ビジネスの手法をネット取引に転用したような安易なものは特許として認めないことで意見が一致した。
米国では、「ゴルフ、メソッド・オブ・パッティング」(パットの手法)が97年に特許を取得、多くの企業から「コンピュータを使わないビジネス手法でもOKなのか」と訝る(いぶか)る声があがっていたが、この三極会合によってひとまずその疑問符は消えた。
プロ・パテント(特許優遇)政策によって先行した米国でも、ビジネスモデル特許に対する認識の浸透には手間どり、しばしば権利主張係争に発展した。ビジネスモデル特許が法的に認められたのは、1999年1月のステート・ストリート銀行判決である。
ス銀行は、インターネットによる金融取引手法の「ハブ・アンド・スポークス特許」をもつシグネチャー・ファイナンシャルを相手取り、特許の無効を主張して提訴した。二審判決でス銀行の敗訴が決まり、最高裁も二審判決を支持。それを機にビジネスモデル特許の「市民権」が確立され、やがて日本へもその報が伝えられて一大ブームが巻き起こった。
●日本では「厳格審査」
ブームの真っ只中に登録になり、日本初のビジネスモデル特許としても注目を集めたのが、住友銀行(現・三井)住友銀行)の振込み人の照合を容易にするシステム「パーフェクト」だ。
ところが、特許に対し第一勧銀、富士、あさひの三行から異議申してが出された。特許庁審判部の審理の結果、「パーフェクト」には特許明細書の記載方法などに問題があるとし、一転、「取消理由通知」を三井住友銀行に送りつけた。
この例でもわかるように、特許庁はここにきてにわかにビジネスモデル特許に対する姿勢を硬化させている。2001年4月、「特許にならないビジネス関連発明の事例集」を公表、そのほぼ同時期に、丸満の「婚礼引き出物の贈呈方法」に対しても「取消理由通知」を出した。
さらには、世界にビジネスモデル特許を認知させたシグネチャーの「ハブ・アンド・スポーク」特許やアマゾンの「ワンクリック」特許に対しても「拒絶理由通知」を出した。もし両社がこれに反論できなければ、米国の誇るビジネスモデル特許も日本ではうたかたの夢と消えることとなる。
2000年のビジネスモデル特許の出願件数は、前年の5倍に膨らんだが、特許庁の「厳格審査」の方針により、急速にしぼむ可能性も出てきた。ただ、米国では依然出願・登録件数が増加傾向を見せている。
Q.職務発明とは
A.職務遂行の中で生まれた発明のこと。特許法によると、企業などの所属組織に通常実施権があり、企業などの所属に通常実施権があり、研究者は一定の対価を受ける権利がある。
●発明者の出願が原則
日本では、大正10年以来、発明者主義を規定している。発明者主義とは、発明者が特許出願をする権利を持っている、という考え方である。逆に大正10年以前の法律をみると、職務上または契約上なした発明の特許を受ける権利は、原則としてその職務を執行させた者に帰属するとして使用者主義の立場をとっていた。
現在の法律では、たとえ、研究者として雇用されている者であっても、発明は発明者本人が特許出願する権利を持つことが原則。しかし、職務発明と呼ばれる一定の要件を満たした発明については、使用者側にもある程度の権利が認められている。
企業などの使用者は、雇用している従業員が使用者の業務範囲に属し、かつ従業者等の現在または過去の職務に属する発明(これを職務発明と呼ぶ)を行った場合、発明者が特許出願をして特許を受けたときも、その特許権について通常実施権を有する。
職務発明については、事前に出願する権利を使用者に譲渡する旨の契約をすることができる。このため、研究者、技術者の多くは、入社時にこの契約をする場合が多い。
一般的には、この方式が行われているので、発明者自身でさえも、あたかも使用者自身であるかのように思いこんでいる人もいるが、現在の日本は、発明者主義が採用されていることを忘れてはならない。また、職務発明に相当する発明以外まで使用者に譲渡するような契約は無効であるし、譲渡に当たっては相当の対価の支払いがなければならない、とされている。
●独創性を目指した報奨制度
特許報奨制度は職務発明に関係する制度であり、企業は従来からの特許の申請時や公開時、また、登録後に、社内規定に基づく一定額を研究者に支払ってきた。ただ、過去、その金額は決して多いとはいえず、一回に数万円程度というケースが大部分であった。研究者側も、特許申請は業務の一部であり、ノルマとして数をこなすことを優先する意識が強かった。
青色ダイオードの発明者、中村修二が発明に対する見返りがあまり少ないと所属していた企業を訴えた事件は、かねてから日本の多くの企業内研究者が不満としていたことが表面化した事件である。優れた研究者に対する待遇が最も良いのは米国であり、多くの国から優秀な研究者が米国に渡っているのが実情である。
日本でも、最近、この報奨金額を大幅に引き上げる企業が相次いでいる。
こうした報奨金の引き上げの背景にあるのは、これまで日本企業は、他社の追随や模倣を防ぐために、とりあえず大量の特許を出願しておく傾向が強く、加えて報奨額も、収益に結びついても結びつかなかくても一定とするところが多かった。このため、特許の件数が多くても、収益に結びつく特許の割合が欧米企業に比べて低いといわれている。
Q.特許権が侵害された場合、どのように救済されるのか
A.民事上の救済がある。前者には「差止請求権」など三つの請求権が認められている。
●直接侵害と間接侵害
特許権侵害とは、権利者に無断で特許の権利範囲に記載された発明を実施することである。
発明が物や装置のときは、それを生産、製造することが権利を侵害することになる。発明物の使用や譲渡、貸渡、また、発明物を譲渡するために物を展示・輸入することも特許権の直接侵害になる。生産方法の特許では、その方法で生産することが直接侵害となる。
直接に侵害しない場合でも、発明物を生産する設備を作ったり、販売したり、組立てることは間接的な侵害である。完成品が特許権を持つものを、部品などのキットとして販売することや、また、生産方法の特許では、その生産方法のみに使う物の作製、販売も間接侵害となる。
●民事上は三つの請求権
このような特許権の侵害から救済する手段には、民事上と刑事上の救済がある。
民事上の救済方法としては、特許権を侵害している者や侵害するおそれのある行為をしている者に対して、そうしたことを止めさせる「差止請求権」が認められている。
差止請求は特許権があることなどまったく知らず、独力で別個に発明実施している人でも免れることはできない。
また、他人の権利を無断で実施した場合には、権利者が受けた損害に対して「不当利得の変換請求権」がある。さらに、侵害者が故意や過失で特許権を侵害した場合には「損害賠償請求権」が発生する。このとき、過失がないことは侵害者が立証しなければならない。
こうした故意の侵害がある場合、米国では、損害賠償額を実損の三倍まで請求できる懲罰的な制度がある。日本でも懲罰的賠償の必要性が指摘されているが、実現していない。現在は侵害立証の簡略化のために、99年1月から損害額を販売数量と権利者の利益で算定できることになった。また、裁判所は権利者の業務上の信用回復のための措置を命することができる。
●刑事上は懲役と罰金
刑事上の救済としては、故意に侵害している場合には、侵害罪として5年以下の懲役、または1億5000万円以下の罰金罪が科せられる。
裁判所では、最近の世界的なプロ・パテント傾向により、権利者に有利な規定や、判例が出る傾向にある。また、従来は権利侵害の立証や権利の解釈で均等の範囲が明確でななかったが、是正される方向にある。
Q.近年、特許係争はどのような傾向にあるか
A.訴訟は増加傾向だが、裁判が長期化するため、和解が多い。特許使用料の支払いを目的とする特許侵害の警告も増えている。
●二種類の特許訴訟
特許訴訟は大きく分けて二種類ある。特許庁を相手に、その特許審判の決定に不服を申し立てる審判取消訴訟と、特許権の侵害の有無を争う特許侵害訴訟がある。審判取消訴訟は、件数は非常に多いが、大勢的に影響のあるものが少ないことから、ほとんどニュースとして流れることはない。
これに対して、特許侵害訴訟は、青色ダイオード事件のように大きく報道されることが多いので、一般的には知られている。通常の特許侵害訴訟は、民事事件として扱われるので、警察や検察が係わることなく、当事者同士で争われる。
特許侵害訴訟は一般の訴訟よりも難しいので、裁判所のノルマ換算でも、通常の事件の事件の倍に換算されているといわれている。通常の窃盗事件が、被害金額や被害者が違うだけでパターン化されているのに対して、特許訴訟事件は、事件ごとに内容が異なるので、裁判所に大きな負担がかかっている。したがって、普通の刑事事件などに比べて長期化する例が多い。
長期化する裁判は、判決を待たずに和解によって決着する例が多くなる原因でもある。このため民間企業同士で話し合いがつかず、やむを得ず訴訟に持ち込んだにもかかわらず、裁判所側から和解勧告をされてとまどうケースも珍しくない。和解は、民事の決着として、司法関係者に好まれている方法である。
特許侵害裁判が特殊なのは、主に、対象となる事件の説明が難しいことにある。法律とそれほど変わるわけではない。弁護士の知識で十分といえるが、技術的説明は不十分とならざるを得ないので、その分野の技術に詳しい専門家の参加が鍵となる。裁判官に対して、わかりやすく正しい説明をする必要がある。
●急増する侵害の警告
最近、多くなってきている訴訟関連のトラブルに、特許侵害の警告がある。もちろん、製造をやめなければ訴訟になるという本格的な警告もあるが、実際に多いのは、特許使用料の支払いを求めるケースである。これは、特許課を独立採算性で運営する企業が現れるなど、企業が使っていない保有特許からも収益を上げようとする動きが盛んになってきたことに関係している。ただ、こうしたトラブルでは、ほとんど話し合いで決着できる例が多く、訴訟にまで至ることは少ない。
特許侵害の警告に対しては、本当に侵害しているか否かを専門に鑑定してもらうこととと、特許よりも以前から公開されている技術を探すことである。現在の裁判所では、特許以前から知られている技術については、その特許権利から除外して判断するという、判例が確立している。
2007年07月04日
